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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)1175号 判決 1958年10月13日

事実

被控訴人(一審原告、勝訴)は請求原因として、被控訴人は昭和二十九年五月九日訴外星野久太郎に対し弁済期を同年六月十四日と定めて金五十万円を貸与したが、右星野久太郎はその後約定の弁済をせず、同年六月二十四日被控訴人に対し、前記債務についていつでも被控訴人指定の担保物件を差入れることを約して借用証を差入れた。

その際星野泰三は兄の星野浩司とともに父星野久太郎の右債務の連帯保証をなし、いつでも被控訴人指定の担保物件を差入れることを約し、右借用証に署名捺印した。

その後被控訴人は前記契約により星野泰三所有の本件不動産につき昭和二十九年六月二十九日抵当権設定請求権保全の仮登記を了し、新潟地方裁判所長岡支部の仮処分命令を得て、右決定は昭和二十九年七月二十二日控訴人に送達された。

その後同年七月二十二日控訴人は本件不動産につき所有権を取得したけれども、前記被控訴人と星野泰三間の担保契約は本件抵当権の仮登記仮処分による被控訴人の指定により右担保契約の内容が確定し、控訴人のその後になした所有権移転登記を以つてしては控訴人は被控訴人に対抗することができず、控訴人は、星野泰三が被控訴人に対して負担する抵当権設定登記義務を承継するに至つたので、被控訴人は控訴人に対し、抵当権設定の登記を求めると主張した。

控訴人は、星野泰三が連帯債務を負担したことは認めたが、担保差入の事実を否認し、抗弁として、仮登記は順位保全の効力を有するだけで、物権変動については何らの対抗力をも有するものではない。従つて本登記を求める請求権が所有権である場合には、現所有者に対しては移転登記の抹消を、前所有者に対しては本登記の請求を各別にまたは同時になすべきであり、ただ本登記を求める請求権が制限物権である場合異説がないでもないが、仮登記に対抗力の認められない以上、被控訴人は控訴人に対する請求と同時に真の登記義務者たる前所有者に対しても協力を求める訴を提起しなければ違法であると抗争した。

理由

証拠を綜合すれば、被控訴人が昭和二十九年五月九日星野久太郎に対し、金五十万円を利息の定めなく弁済期同年六月十四日の約束で貸与したが、星野久太郎は弁済期にその支払をしなかつたので、被控訴人は久太郎の長男星野浩司、次男星野泰三の両名にも連帯保証をして貰い、且つ担保物件を提供して貰うため、昭和二十九年六月二十四日星野久太郎宅を訪ね、恰度居合せた星野浩司、星野泰三等に対し、持参した借用証を差出して署名捺印を求めたところ星野浩司、星野泰三は星野久太郎の前記金五十万円の債務につき連帯債務者となること及びいつでも被控訴人指定の担保物を差し入れることを承諾し、右久太郎、浩司、泰三の三名は右連帯借用証に記名または署名捺印して被控訴人に交付したことが認められる。

しかして前記担保差入契約は、連帯借用証の文言の上では、連帯債務者たる星野久太郎、星野浩司、星野泰三が金五十万の債務の担保として、各自所有の物件のうち債権者たる被控訴人の選択指定する物件を差入れる趣旨のように見えるが、被控訴人本人の供述及び弁論の全趣旨を綜合すれば、星野久太郎は当時営業不振のため倒産して何らの資産を有せず、僅かに星野泰三所有名義の本件不動産があつたのみで、このことは星野久太郎、星野浩司、星野泰三はもとより被控訴人も承知していたものであるから、担保差入契約に当つて当事者は何れも担保物件を選択特定する必要あるものとは考えず、債務者等はその所有不動産をすべて担保として提供するから、被控訴人の好きなように抵当権を設定するなり何なりして宜しいという趣旨で担保契約をしたものであると認めるのを相当とする。従つて、被控訴人が星野泰三所有名義の本件不動産について、抵当権設定を受けるについては、特に星野泰三に対する担保物件指定の意思表示をなすことを要せず、被控訴人が本件不動産を抵当権の目的物とする事実行為があれば足りるものといわなければならない。

ところで、証拠によれば、被控訴人は前記担保契約に基き本件不動産につき抵当権の設定を受けるため、先ず、新潟地方裁判所長岡支部に本件不動産につき抵当権設定請求権保全の仮登記仮処分命令を申請し、昭和二十九年六月二十八日同裁判所の仮登記仮処分決定により同年同月二十九日被控訴人のため抵当権設定の請求権保全の仮登記を了し、同年七月二十二日星野泰三に右仮登記仮処分決定の正本の送達があつたことが認められる。

してみれば、ここに、星野泰三と被控訴人との間に本件不動産について抵当権設定関係が具体的に確定し、星野泰三は被控訴人に対し右抵当権設定の本登記手続をなすべき義務を負担したものといわなければならない。

一方、証拠によれば、被控訴人の前記抵当権設定の仮登記があつた後である昭和二十九年七月二十二日、本件不動産につき控訴人のため所有権移転請求権保全の仮登記がなされ、同年八月六日右所有権移転の本登記がなされたことが認められる。

してみると、被控訴人は、本件不動産について有する仮登記ある抵当権を以て、右不動産所有権の取得者たる控訴人に対抗することができるのであるから、控訴人は前所有者たる星野泰三の負担していた抵当権設定の本登記をなすべき義務を承継するものとなし、仮登記権利者たる被控訴人に対し、前記抵当権設定の仮登記につきその本登記手続をなすべき義務あるものと解するのを相当とする。

以上のとおりであるから、控訴人に対し右登記手続を求める被控訴人の請求は理由があり、これを認容した原判決は相当で、本件控訴は理由がないとしてこれを棄却した。

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